HOUSE-U

計画地は、古い家屋があった広い敷地を二区画に分譲した一区画である。北側と南側に二面接道した変形敷地であり、隣地や道路との高低差がある状態であった。特に南側道路向かいの隣地が地盤面から約2.5M程高いため、日射への影響が懸念された。加えて北側道路が敷地への主出入口になるのだが、地盤面から約1.2M程低い状態にあり、擁壁などのコスト面の懸念もあった。施主からはその二点の懸念事項を払拭する計画とすることと間仕切りのない広い空間を設けることが主の要望とされていた。


HOUSE-Uに限った話ではないのだか、私は実際の計画地に机と椅子を持ち込み、数時間滞在しながら大枠の方向性を思案する。その作業によって判断できたことが下記の1~6である。


1.日射シミュレーションアプリを使用し、太陽軌道を確認すると敷地東側エリアの高い位置からは問題なく日射を確保できる。逆に敷地西側のエリアは日射の確保が難しい。


2.南側隣家に対して角度を振ると計画建物がほぼ真南に向き、方位的に優位に働きつつ、窓からの視線が対面になることを避けられる。


3.北側道路は高速道路のインターに続いていることもあり、交通量も多く騒音や排気ガス量も比較的激しい。同時に北側隣地の飲食店からは排気などの騒音や臭いも多少はある。


4.西側隣家の土留めにクラックなどがあったことから転倒の危険性がある。仮に転倒しても計画建物に被害がないよう距離を保つ必要性がある。


5.南側道路は車の通行はできないことから限定された人の往来しかなく利用者は少ない。


6.高低差が低い北側道路から地盤面までは坂道で繋がっているが駐車するのに支障がない程度の勾配である。


そのことから


A.建物全体を西側隣地の土留めから距離を保ちつつ、東側のポジティブなエリアを活かすため、建物配置を東側に寄せる。


B.限定された人の往来しかない南側道路面に対し積極的に開き、採光を確保しつつ、南側隣地に対して角度を振り、窓からの視線が対面になることを避けながら、方位的に優位な南面をつくる。


C.東側のポジティブなエリアに階高が高く大きなヴォリュームを設け、日射取得をしつつ、メインとなるLDK、ガレージ、書斎、主寝室、衣装室を一体空間として配置する。


D.西側のネガティブなエリアに低いヴォリュームでサブとなる水廻り、予備室などを配置しつつ、東側の大きなヴォリュームに対してのコントラストを高める。


E.北側は可能な限り閉じ、北側道路や飲食店からの騒音や臭いに考慮しつつ、南側の開放感や内部の大きなヴォリュームへのコントラストを高める。


F.北側道路から地盤面までの坂道はそのまま活かし、スロープ状の駐車場兼アプローチとすることで擁壁などの土留めを不要としコストを抑える。


上記A~Fの構成を取る計画とした。


ここまでは周辺環境や要望からロジカルに計画した内容であるが、HOUSE-Uには、もう一つのコンセプトを設けている。それは〝ズレをつくる・違和感をつくる〟というものだ。


間仕切りがない広い空間を設けたいという要望は「モノを自由にレイアウトしたい」という理由からだった。施主夫婦は多くのモノを所有していた。その時に出会った良いモノを長く使う主義なのだと私は感じていたのだが、そのせいかモノ同士の統一感はあまりない。しかし、不思議とまとまりがあり、非常にセンスの良いモノで溢れていた。現在のセンスの良いモノも残り続けながら、新たに豊かな多くのモノが少しずつ増えていく未来が想像できた。


そのモノを活かすような空間を思案すべきだと考えた。かといってホワイトキューブのようなモノが主役になりすぎるプレーンな空間ではなく、モノと空間が渾然一体となっていくような構成を目指し、ベースとなる建築側に〝ズレ〟や〝違和感〟を敢えて設えた。平面形状が不整形であったり、シンメトリーのようでアシンメトリーであったり、マテリアルや色などの切り替えに統一感を持たせないことなどだ。ファッションでいうと〝外し〟のような感覚である。スーツであれば革靴を履くことで統一感は生まれるが、敢えてスニーカーを履き〝外す〟ことでインパクトを与える。普通は揃えていくところを敢えて揃えず〝外し〟ていく作業を施主夫婦のセンスやアイディアを借りながら協働で繰り返し、構成を決定していった。


空間に多くの〝外し〟を設け〝ズレ〟や〝違和感〟をつくることによって、住宅の建築空間単体だけではなくモノ、つまりは、人や生活や営みが介入することで活性化される住空間の提供を目指した。


HOUSE-U
竣 工:2022年4月
所在地:神奈川県中郡二宮町
用 途:専用住宅
構 造:木造2階建
規 模:約110㎡
施 工:バウムスタンフ
撮 影:花岡慎一
放 映:渡辺篤史の建もの探訪
掲 載:architecturephoto
    ArchDaily
    &Premium No.118
    TECTURE MAG