Nさん家族の土地探しを継続中です。先日、東村山市で非常に豊かですが、非常に理不尽な敷地に出会いました。
形状は旗竿敷地ですが、北側・東側の2面は高台になっており、ロケーションが非常に良い。周囲の山々や西武園遊園地の観覧車、夏には花火を眺める事もできるとのこと。敷地には樹齢20年程と想定される桜やモミジ等が現存しており、四季それぞれで違った表情を見せてくれる事が期待できる緑豊かな環境でした。色々なイメージが膨らむ豊かな敷地をNさん家族も私も一目で気に入りました。しかし、懸念材料が2点程あったので役所調査後、購入を検討することとなりました。
1つ目の懸念材料は「擁壁」です。高台になっている北側・東側には高さ5~7m程の擁壁が現存しています。擁壁には大きく分けて4つの種類があります。1つ目は「宅地造成・区画整理等の公共事業による擁壁」、2つ目は「個人・法人事業者の開発行為による擁壁」、3つ目は「建築確認申請で工作物として申請している擁壁」、4つ目は「高さ2m以下の許可等を必要としない擁壁」です。1~3つ目のいずれかの擁壁であれば、敷地の安全性を担保できる擁壁として行政は判断してくれます。4つ目の擁壁であれば安全性については設計者に判断が委ねられます。行政機関で擁壁の履歴等について調査を行いましたが、結果は驚きの内容でした。機関担当者は「その擁壁に関する許可番号等の履歴は一切ない」と言うのです。対象敷地の擁壁は敷地の部分だけではなく周囲の敷地から連続して同構造の擁壁が100~150m程は構築されていました。また、基準等に準じたものであると外観上は判断できるものでした。無許可で構築されたものとはとても思えません。敷地には築30年程の古屋がありますが、無許可で構築された擁壁であれば「崖地条例」により建物への制限が厳しくなります。その基準も満たせているようには見えません。なぜその古屋が建つ事ができたのか謎が残ります。機関担当者に尋ねると「わかりません。30年前の履歴は残ってないのでこちらでは把握していません」と回答が戻ってきました。そのような履歴や経緯を管理するのが仕事ではないのでしょうか。非常に理不尽な回答です。結果「謎の擁壁」ということになってしまいました。
2つ目の懸念材料は「接道義務」です。原則として敷地は4m以上の幅員の道路に2m以上接していなければなりません。それを「接道義務」と言います。今回の敷地は4m以上の幅員の道路に2m以上は接していますが、接している道路が建築基準法上認められていない「法定外道路」でした。「接道義務」を満たしていない敷地には原則建物は建ちませんが「建築基準法第43条第1項但し書許可」を取れば建築することが可能になります。その許可手続き等について行政機関に確認した所、その内容は非常に苛酷なものでした。詳細に書いていると内容があまりにも膨大なものになってしまいますので中略しますが、許可を降ろすまでに相当な労力と時間とお金を必要とします。難しい手続きを淡々とこなしているだけであれば、まだ良いのですが、道路の所有者全員の承諾・実印・印鑑証明が必要になる等、自分の力だけではどうにもならない部分があり、どれ程の時間が掛るか全く読めない。担当者は「降りるかどうかわからないとしか言いようがありません。時間に関しても何とも言えません。長い人は2年程前からスタートしてまだ手続きが終わってません」と言うのです。今回の敷地はもう人は住んでいない状態であり、売りに出してしまっているからまだ良いと思いますが、仮に居住中で建て替えをしたい場合はどうなるのかと思い「建物がボロがきてるので建て替えをしたいとなっても同じ手続きを踏むのですか?手続きをしている最中に南海トラフ地震が起きて建物が倒壊したらどうするのですか?救済処置等はないのですか?」と質問すると「建築基準法第43条第1項但し書許可が必要な敷地に住まう人の宿命です。それが嫌なら最初からその敷地に住まわなければ良い。同じ手続きを踏んでもらいますし、救済処置もありません。勿論、建物が倒壊しても責任は取れません」との回答でした。理不尽を通り越して冷徹な対応です。土地も建物もその人の立派な財産です。もう少し血の通った行政であってほしいものです。
あれだけの豊かな条件が揃った敷地です。非常に勿体無い。言うまでも無いですが、今回は諦める事になりました。土地は巡り合いです。今回は縁がなかったと考えるしかないですね。